溝口温泉

一切の看板も案内板も、ましてやその場所に至っても、温泉の名前を示すものがありません。大まかな場所を特定したものの探しきれず、通りかかりの方に尋ね、やっと見つけました。
探し当てた温泉は農家の庭先にありました。母屋に向かって声をかけますが応答なし。しばらくして軽トラックがやってきました。この家の方でした。100円を手渡します。これで入れます。



シンプルな脱衣所には畳を敷いた台があります。これに寝そべることもできます。開け放たれた窓からは山間ののどかな風景が広がるのみ、なんとも心が落ち着きます。
浴場はコンクリート製の浴槽がひとつあるのみ。加えて、洗い場と思われる水道の蛇口が2箇所。湯口からは少量の源泉が掛け流され、切り取られた浴槽の縁から溢れた湯が流れ去って行きます。
湯を手に取り口に含むと塩の味。臭いはありません。泉質分析の表示を見つけることはできませんでしたが、炭酸水素塩泉ではないかと想像します。貸切の浴場で仰向けになってみます。何とも安らぎます。
浴槽内には温泉成分が付着したと思われる小さい突起物が一面を覆っています。痛そうですが、背中に当たると、心地いい感触です。浴槽の縁は乳白色と茶色の成分がこびりつき、そっけないコンクリート製浴槽の顔はありません。



溝口温泉にたどり着くまで6時間が過ぎていました。浴槽に一人浸かって時間を過ごしていると、運転の疲れも心の痛みも和らいでいくのが不思議です。商売のにおいは一切しません。こんな温泉があるなんて、嬉しさと感謝の気持ちが湧いてきます。


溝口温泉 ※2015/3/31で閉鎖の情報あり
伊佐市菱刈町川北
泉質不明 アメニティーなし
100円 
2006/9/2


■再訪 2014/3/23
長い時間をおいて訪れたにもかかわらず、記憶の風景と目の前のそれは変わっていないように映りました。



母屋の玄関前で声をかけると、女性が出てこられました。入浴をお願いすると快諾。100円を手渡し浴舎に向かいます。脱衣所には変わらず畳を用いたバンコが置かれています。




淵に温泉成分が付着したコンクリート浴槽には、湯口から静かに湯が注がれます。やや熱めの湯です。誰にも邪魔されない、至福の時間だけが過ぎていきます。





湯上り、バンコに腰を下ろし、開け放たれた窓から吹き入る風で体の火照りを冷まします。無縁の者にもこの湯を提供いただいてることに感謝!